明治時代周辺の歴史を学べて、文体も古すぎず読みやすい、私の大好きな島崎藤村の代表3作品を紹介します。
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夜明け前 (第一部/第二部)
幕末から維新を経て明治に至る、宿場町(現在の岐阜県馬篭宿)に暮らす一家の歴史を、写実的に描いた物語。小説と言うよりも、ドキュメンタリーの類である。というのも、主人公のモデルは島崎藤村の父であり、実際に馬篭宿で幕末から明治を生きた人だから。全国にある宿場町は如何なる役目を負っていたか、ひとつは参勤交代の休憩所であり、関所であり、徳川幕府を支える役場でもあったが、主人公の青山半蔵は国学者として討幕運動に傾く。
歴史の教科書では、鎖国の幕府と近代的な明治政府を対比して語られることが多いが、そんな単純ではないことに気付かされる。階級闘争というのも後付されたものだ。「旦那様、おれはここで」と玄関框に座って飯を食う下男は差別の結果だろうか?総中流といいながら声高の者がより多く権利を有する現代の気色悪さよ。
維新の中で民衆の戸惑う姿も興味深い。馬篭から江戸へ歩いて旅する様子もおもしろい。わらじ履きの旅で足の汚れはどうするのかと思えば、宿に付いたら桶にお湯を入れて洗わせてくれるそうな。
幕末から明治の人々の暮らしを、時代の空気とともに語る、このような小説はもう出てこないでしょう。当事者から伝え聞いたものと資料では生死の違いがあります。「明治維新ってどんなだっけ?水戸や長州は何をしたんだっけ?」と復習する人がパラパラ読むのもいいですよ。
新生
先ほどは父親の物語だが、これは自伝と言えるもの。あらすじを書くと島崎藤村の評価がガタ落ちしますが。妻を早くに亡くした小説家の主人公(=藤村)が、小さな子供の世話の為、姪(兄の娘)をお手伝いとして住まわせるが、体の関係となりやがて妊娠、その後の処理を兄に任せてパリ旅行。姪は父親不詳として子を産み養子に出す。パリで第一次世界大戦の混乱にあい帰国、その後また愛人関係となるが、突然全てを小説として発表してしまう(=この小説)。姪は日本にいられなくなり、親戚を頼って台湾へ渡る。二人の永遠の愛を誓ったまま。
秘密を発表したつもりが、実は周りの皆はその関係をずっと知っていたが、世間体の為触れずに置いていたというオチもつき、藤村の人間としてのクズっぷりを発揮します。
破戒
部落出身者が教師となり、そのことを隠し通そうとするが、良心と誇りに耐え切れず、生徒の前でカミングアウトして去っていく話です。穢多非人が遠い昔となった現代人からすれば、まるで無実の殺人犯が追い詰められていくような、サスペンス的な面白さの方が大きいでしょう。「穢多は体臭からして違う」と言われた時代です。牧歌的な教師生活と比較した時の、差別と言う暴力の激しさが目に付きます。語弊を恐れずに現代に置き換えてみれば、嫌中韓の時代に、実は祖父があちらの国の人だったことが分かり、ばれたらSNSで叩かれるかもしれない、とドキドキするようなお話です。「あちらの血統だと奥二重にもならないものだ」と語る友人と目が合わせられなくなる、そんなシーンを想像すると冷や汗垂らしながら読むことができます。
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